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「いやはや、てっきり別の何かかと思ってしまって。
すまないね。気分は大丈夫かい?」
「ああ。
問題は無い」
どうやら、今のが殺気と呼ばれる物なのだろう。
理論は全く分からないが、出そうと思って出るものでは無いのは確かだ。
「後ろの娘さんは……」
男児の父親は、俺の背後に隠れた人質を覗き込む。
それと同時に人質は尻尾をビクつかせると、俺を挟んで、男児の父親の視線の反対側へと移動した。
「そこまで明らさまに避けられると、流石に傷付くね」
男児の父親は苦笑いを浮かべると、続けて口を動かす。
「まあ、非があるのは此方だ。
どうだろう?お詫びと言ってはなんだけど、村で1番人気のウチの果物食べていかないか?」
人質の尻尾がピクリと反応を示す。
それと同時に、少しづつゆっくりと、尻尾が左右に揺れ始めた。
「お姉さん、食いしん坊なんだね」
「マグ!」
マグと呼ばれる男児は、父親に軽く頭を叩かれる。
人質の尻尾はピンと上へと跳ね、その後、力を失ったように垂れ下がった。
恥ずかしがっているようだ。
「すまない。
今直ぐウチの一押しの果物を剥いてくるから、待っていてくれ」
父親はそう言うと、にこやかに笑うマグを置いて敷居を跨いで、部屋へと戻って行った。
「そうだ!ねえねえお姉さん!
お姉さんの言った通り、 パパに言ったら、パパ僕の事嫌いじゃ無くて、いじわるしてたんじゃなくて、好きで、それで、僕の事を思って、嬉しくて、僕間違ってて、謝って、そしたらパパも謝って……」
途切れることのない話し。
永遠に続くのではないかと思われたその話しは、人質の手によって、突如として終わりを迎えた。
「そっか……よかったね」
人質は俺の後ろから出てきたかと思うと、微笑みながらマグの頭に手を乗せる。
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