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「……うんっ!!」
マグはニパっと笑顔を咲かせ、大きく頷く。
「そうだ!お姉さん、ちょっと待ってて!!」
マグはそう言うと、駆け足で敷居をよじ登って行った。
「なんですかね?」
「さあな」
暫く待っていると、ガシャンやら、パリンやら、奥の部屋から鳴ってはならないような音鳴り響き、数秒後に、「マグ!!!」という怒鳴り声と、鈍い音が聞こえてきた。
「だ、大丈夫ですかね?」
「大丈夫ではないだろうな」
「で、ですよね」
大丈夫ならば父親も怒鳴らないし、鳴き声も聞こえてこないだろ。
それから、数分に渡ってマグの鳴き声が八百屋中に反響し、慰めようと人質がオロオロと1歩を踏み出そうとしていると、急に鳴き声が止み、マグが顔を出した。
「ぐすっ……お待だせ……」
マグは腕で目を擦りながら、ゆっくりと敷居を降りる。
頭と服には大量の埃が付着していて、人質は慌てて近付くと、「大丈夫?」と声を掛けながら優しく埃を払う。
「だいじょうぶ……。
お姉さん……これ……」
マグは目を擦るのを止め、真っ赤に膨れ上がった目を晒すと、握りしめた拳を人質の前に出した。
人質はよく分からず、一度は首を傾げたものの、すぐにマグの気持ちを把握し、小さな拳の下に両手で受け皿を作る。
「ん……」
開いた、小さな手のひらからこぼれ落ちたのは、直径3センチ程の黒い影。
人質はそれを貰い受けると、ニコリと笑みを浮かべ、自分の手のひらを見た。
「ありがとぉうわぁ?!!」
人質は異質な叫び声共に、両手を勢いよく上方へと打ち上げる。
すると、人質が貰い受けたであろう物体は、人質の手を離れ華麗に宙を舞い、美しい弧を描いて俺の頭に着地をした。
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