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俺は頭を弄り、頭に落ちた物体を見つけだすと、手に取り、自らの目の前へと持ってきた。
小さい虫の人形のようだ。
「無理……ゴックルだけは……。
ゴックルだけは絶対に無理……」
「フヘヘヘヘ」
人質は腰が抜けたのか、その場に座り込み、絶望に打ちひしがれている。
そんな様子の人質を見て、マグはしてやったりと、泣いて詰まった鼻を鳴らす。
ゴックルとは、この世界で最も嫌われている虫のようだ。
テカテカと妖しく光るその体表面と、素早い動きで翻弄し、幾人もの人々を怖がらせている。
地球で言うゴキブリみたいなものらしい。
「えへへ、ごめんねお姉さん。
はい、これが僕の本当の宝物」
マグはそう言うと、人質を警戒させない為にか、左手のひらを上へ向け、乳白色の白く丸い物体と共に差し出す。
「ほへぇ……」
人質は、手のひらで美麗に輝きながら転がるそれを見るなり、感嘆の声を洩らす。
どう見ても、どう見ようとも、あれは真珠だ。
しかも、この白の純度からすると、売ればかなりの値打ちになる物だろう。
「お姉さん、早く受け取ってよ。
手が疲れたよ」
「え、でも、大事な宝物なんでしょ?
気持ちだけ受け取っておくからね?」
「駄目!!いいの!!
僕はお姉さんに貰って欲しいの!」
「うーん……でも……」
受け取る事を渋る人質。
どんなに知識が無くとも、これは見ただけで高価な物だと分かる。
それ程に美しく純白の真珠なのだ。
人質の性格上、それを渋るのは頷けるが、相手は子供である。
多分、此方が受け取らない限り引いてはくれないだろう。
「えっとね、キミ。
それは、そうだね……」
人質がどう断ろうかと口を動かしながら考えていると、マグが突然、人質の手を自分へと手繰り寄せ、無理やり指を開き、真珠を置いた。
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