あの頃……そして今

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今でも目蓋を閉じると、その時、その場所に戻ったかのように、当時の事を思い出す。 あれは、俺が友達と喧嘩した時。 母のご飯を残そうとした、その時だった……。 「お母さんから聞いたぞ。 お前友達と喧嘩したんだってな」 「……うん」 そうやって、酷く落ち込んだ自分に声を掛けてきたのは、何処となく自分と似た、1人の男性。 「そうかそうか。 辛いか?辛いよな?そうだよな? 知っているさ!」 男が俺の背中をバシバシと叩く。 「痛い、痛いよお父さん!」 男性……俗に言う父親。 その、迫り来る手から逃れるように、俺は背中を凹ませる。 「おお、すまんすまん。 お詫びに……そうだな……。 咲夜にどんな辛く悲し事があっても、どんな困難でも乗り越えられる、特別な魔法を1つ教えてやろう!」 「え?!ホント?! その魔法使えばヨシ君とも仲直り出来る?!」 「おう、出来るとも!」 「お父さん……あまり変な事を咲夜に教えないでくださいよ?」 母が父に向かって、ため息と共に言葉を投げかける。 それに対して父は、口角を吊り上げ、任せろと言わんばかりにお母さんに満面の笑顔を見せる。 「よし!それじゃあ咲夜……よく聞けよ……。 他言無用だからなぁ?」 「他言無用って?」 「他の人に教えちゃ駄目だぞって事だ」 「うん!わかった!!」 「よし!いい子だ!」 父は俺の頭をぐりぐりと撫でる。 「じゃあいくぞ? お父さんのマネをするんだぞ? せーの、ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」 父は大きく口を開き、大声で笑い始めた。 「ほら、咲夜もほら!」 「え?が、ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」 「よし、いいぞ! もう一回だ。 ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」 「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」 戸惑いながらも、父の言われた通りに、事を実行する俺。 食卓に、うるさくも、元気な笑い声が響き渡る。 「……よし、オッケーだ! 流石は我が息子!!」 「え?これで終わりなの?」 「なんだ咲夜?お父さんが信用出来ないのか?」 「え?あ、違う……けど……」 俺が言葉篭ると、父が俺の頭に手を乗せ、優しく微笑んだ。
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