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「俺は一緒に遊んではいない。
お礼ならミーシャに言ってくれ」
「まあ、確かにそれもそうだな」
マグの父親は持っている大皿を、敷居から長い腕を伸ばし、直ぐ見える部屋の卓袱台の上に置くと、敷居に腰を下ろす。
人質もいなければマグもいない。
邪魔する者がいない1対1のこの状況は、俺にとって、かなりの好都合。
今を逃さない訳にはいかない。
俺は話を良い方に切り出そうと、口を開いた。
しかし……
「私に聞きたい事があるんだろ。
隣に座んな」
俺が声帯を震わせるよりも早く、俺のしようとしていた事を知っていたかのように、自らの隣に空いたスペースを手のひらで数度叩く。
何処で、どの時点で知られたのかは、皆目見当も付かないが、答えてくれそうな流れの為、刃向かう事なく、言われた通りに隣に腰を下ろす。
「まず、聞かれそうだから先に言うが、私の前職は兵士だ。
自分で言うのもなんだが、人類最強だと噂されていた事もある。
修羅場も幾つも乗り越えてきたし、犯罪者を裁いた数は、数え切れない程だ。
こうも数をこなしていると、嘘を見抜く力や勘や推理力が勝手に冴えていってな。
息子が俺の事を話したのは知っているし、それに、偶然立ち止まった店が助けた子供の家だったなんて、出来すぎている。
だから、お前が俺に聞きたい事があるのではないかと思った。
それと、とりあえず、貴様達が親子ではないという事と、獣人ではないというのは分かっているからな」
マグの父親は、道で遊ぶ2人を眺めながら、当たり前かのように、すらすらと言葉を並べた。
圧倒的格の違いを見せ付けられた後に、同時に余計な事をすれば殺すという脅しも受けた。
一見、ただ呆然と楽しそうにはしゃぐ2人を眺めている、強面の変な大人に見えるが、隙は全く無く、意識は確実に俺の事を捉えており、少しでも俺が怪しい動きをすれば、俺の命は一瞬で消え去るだろう。
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