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「成る程、マグから治して貰ったと聞いてはいたが、見せ掛けの“活性化”では無く、本当に“治癒”のようだな」
マグの父親は、人質の表情や振る舞いを確認すると、自らの顎に触れる。
活性化の能力は、生きている物の活性化がメリットの能力。
外的要因の損傷であれば、細胞を活性化させ、治す事が可能。
治癒の能力と似たような事が可能である。
しかし勿論デメリットも存在し、細胞が普通何十日も掛けて治す傷を、細胞を強制的に活性化させ、ものの数秒で治してしまうので、身体に掛かる負担が膨大となる。
擦り傷程度であれば気に留める事では無いが、あの時のマグの傷全てを活性化で治していたとすれば、寿命が数十年減っていたのは間違いない。
今のマグの父親の心境は、マグの元気な様子を見て、活性化では無いとは分かっていたが、能力の効果を目の当たりにして、本当に治癒という事を確認できて安堵したというところだろう。
「ご心配お掛けして申し訳ありませんでした。
ありがとうございました」
人質は砂埃を払い終えると、マグの父親に向けて、深々と頭を下げる。
「いやいや、こっちこそ無理させてしまって申し訳なかった。
治って良かった」
マグの父親は人質の頭に手を乗せて、微笑んでるように見えない微笑みを浮かべる。
人質は頭を上げると、次に店内の方向を向き、店内を見回しながら口を動かす。
「マグ君のお母さんも……お母さんも…………。
……あれ?」
人質は、マグの母親にもお礼を言おうと思ったのだろうが、店内にはもうその姿は無かった。
厳密に言えば、姿はあるのだろうが、完全に何処かに擬態しているのだろう。
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