人類最強になれなかった男

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「すまないね。妻は極度の人見知りなんだ」 マグの父親はそう言うと、「ハハハ」と渇いた声をあげる。 とてもだが、接客業に向いているとは言えないな。 「慣れるまで1カ月は必要だからね」 野生の動物か何かだろうか。 「えっと、その、マグ君のお母さんもご心配お掛けして申し訳ありませんでした」 人質は何処に居るかも分からない相手に、頭を下げる。 すると、野菜コーナーの一角のカボチャに似た野菜の1つが、少し揺れた。 いったい何種類の被り物を自作したのだろうか。 「ねえパパ。それで、道場で何するの? 追いかけっこ?」 「いや、今日は違う。 模擬戦をしようと思ってな」 「僕も模擬戦やるー!!」 マグは「やあ!!」という掛け声と共に、拳を前へ突き出す。 成る程な。 「今日は」か。 「いや、危ないから駄目だ」 「えーー!!」 マグは不満そうな声を上げた後、頬を目一杯膨らませる。 模擬戦か。決闘とは言わないのだな。 「じゃあ、じゃあ、見ててもいい? 邪魔しないから!!」 「まあ、それならいいが……」 マグの父親は俺の方を見てくる。 「俺も別に構わない」 「やったぁ!!」 マグは目を輝かせると、嬉しそうに再びシャドウを始めた。 確実に乱入する気満々である。 マグの父親は、自分の息子のそんな様子にため息を吐くと、そっと人質の肩に手を乗せ、マグに自分の口元が見えないように手で隠す。 「大変申し訳ないのだが、マグが余計な事をしないように見張っていて貰ってもいいかな?」 人質は苦笑いをしながら、小さく「はい」と頷く。
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