548人が本棚に入れています
本棚に追加
「すまないね。ありがとう」
マグの父親はそう言うと、手を退かし、自分の息子の元へと歩み寄り、抱え上げた。
「2人共ついて来てくれ」
腕の中でキャッキャと暴れるマグを物ともせず、父親は振り返る事無く敷居を跨ぐ。
俺と人質もそれに続くように敷居を跨ぎ、部屋に上がった所で人質の視線が斜め下の方で固まり、歩みが止まる。
そういえば切られた果物が置いてあったな。
「ああそういえば、もし良かったら、その果物下に……」
「ありがとうございます!」
マグの父親が全てを言い終える前に、人質は尻尾を振りながら、大皿を大事そうに抱え持つ。
人質の瞳にはもう果物しか映っていない。
マグの父親は振り向き、息子の制止役を頼んだ人物の落ち着きの失った姿を見て、少し心配になりつつも、その部屋の正面から見て奥の襖を開いた。
開いた先は、床に焦茶色の木材が使われた、左右に分かれる廊下になっていて、直ぐ真下の床に、不自然に取っ手のような凹みが存在していた。
地下道場に床の不自然な凹み。
ここまで知っていれば、これからマグの父親のする事が予想が付く訳で、少し離れた所で開かれるのを待つ。
「よっ」
マグの父親は屈み、凹みに指を滑り込ませると、何も負担が掛かっていないかの如く、まるでただ腕を動かしただけのような動きで、1辺2メートル程の表面が木材の石の床を持ち上げ、地下へと続く石の階段を露わにさせた。
螺旋している階段の壁には手摺りはあるものの、光を放つ物は一切置かれて無く、床を閉じ、外からの光を完全に遮ってしまえば、何も確認出来なくなるだろう。
「この先薄暗いから、踏み外さないように気をつけてくれ」
マグの父親はそう言うと、一定の間隔で足を鳴らし、慣れたように軽快に階段を下りて行く。
最初のコメントを投稿しよう!