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「そんな事無いから早く離せ」
俺がそう言うと、人質は顔を青ざめさせながら、ゆっくりと顔を上げ、口を動かす。
「本当ですか?」
「本当だ」
「絶対ですか?」
「絶対だ」
「神に誓いますか?」
「神に誓う」
「証明出来ますか?」
「証明出来……」
いや、待て。
頑なに否定していたが、可能性は無くもないか。
1パーセントにも満たない程の確率ではあるが、何かしらの要因でそうなってしまう事があり得るかも知れない。
魔法が存在する世界だ。
何があってもおかしくはない。
「訂正する。
絶対は無い。可能性はある」
「そんな……。
ということは、私は一生この喋る手と暮らす事になるんですね……」
人質は耐え切れない現実に肩を落とす。
「いや、まだ喋ると決まった訳ではない。
俺が考えるに、その可能性は限りなくゼロに近い。
喋ると決め付けるのにはまだ早いだろう」
「そうですよね……。
まだ決まった訳ではないですよね……。
結果はこの手を開いたと同時に分かる……」
人質は大きく息を吸うと、ゆっくりと吐き出し、全ての空気を肺から出し切ったところで、反動で空気を吸いつつ、目を見開く。
「いきます!」
現実を受け入れる覚悟をした、力強く燃え盛る瞳。
ドクンドクンと、間隔が短くなってゆく鼓動。
額からは汗が滲み出て、一滴のしずくが重力に耐えられなくなり、頬を伝い顎まで達す。
1回2回と鼓動と共に揺れるしずくは、重力に従い、少しずつ肌から離れてゆき、そして……。
「はああああああ!!」
汗が溢れ落ちると同時に、人質は握られた手を思いっきり開き、開き切った手のひらを自らの顔の方へと向ける。
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