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「良かっ……」
「いつまで待たせるつもりだ」
「ほああああああああああああああああ?!!」
安堵の声が漏れた瞬間、それを嘲笑うかの如く聴こえてきた、俺でも人質でもない人物の声。
その瞬間、人質は叫び声と共に、持っていた大皿ごと両手を勢いよく上へ伸ばし、予告通りフルーツをぶち撒けた。
俺は咄嗟に身体に魔力を纏わせると、目にも止まらぬスピードで動き、宙にある大皿を手に持ち、皿で宙に舞う全ての果物を無事拾い上げた。
「なんだ?!何事だ!」
先程聴こえてきた声と同じ声。
手が喋った訳では無く、声の正体は痺れを切らせて階段を上って来た、マグの父親である。
「手が喋っ!!
無理!!恐い!!」
人質は目を閉じ、両手を頭の上でグルグルと振り回す。
冷静に声を聞けば、マグの父親だと直ぐに分かると思うのだが、どうやら冷静になる事が無理そうである。
「なんだその動きは!
呪いの類いか!
今直ぐ止めろ!!」
呪いではない。
ただテンパっているだけだ。
「いやああああああああ?!!
聴こえない!私は何も聴こえませんんんんん!!
手が喋っているのなんて聴こえませんんんんん!!」
「聴こえません」と言っている時点で聞こえているし、手は喋っていない。
というか、先程の覚悟は何処へ行った。
「落ち着けミーシャ。
手は喋っていない。
喋っているのは、マグの父親だ」
「聴こえない!聴こえな……。
聴こ…………へ?」
人質は恐る恐る、片目を開く。
視線の先には、人質の動きを止めようと掴み掛かろうとした、マグの父親の姿があった。
「…………ということは!!」
人質は手を下ろし、左手のひらを自らの顔の前へと持ってくる。
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