脅迫フリーキック

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「さあいよいよ試合が始まります!選手入場です!ここ国立競技場に集まった大観衆7万5000人が、一斉に日本コールを送っています!にっぽん!にっぽん!」 アナウンサーのかすれ声が、テレビに鳴り響く。 「さあ、いよいよ試合開始のホイッスルがなろうとしています!日本代表が円陣を組みました。何やら近藤選手がチームに向かって話していますね。チームメートを鼓舞しているのでしょう。木田選手に向かって入念な指示を出しています。何を話しているのか聞けないのが残念です。きっと、コンビネーションの最終確認といった所でしょうか。 おや、珍しくGKの中島にも近藤選手が耳打ちしています。この試合に掛ける気持ちが、並大抵では無いという事なのでしょう。さあ、いよいよホイッスルが鳴ります!」 試合は、日本代表のペースで進んだ。近藤が、コート全体にパスをさばき、相手の体力を奪う。木田へのスルーパスを供給し続ける。そこまでは、日本代表のリズムであった。 しかし、肝心のゴールが決まらない。木田には、緊張からか固さがあった。いつもなら、少ないチャンスを確実に決めてきた、その左足が言うことを聞いてくれない。 前半だけで、日本代表が放ったシュートの数はブラジル代表の3倍の12本にも及んだ。 しかし、その中で、ゴールの枠内に放たれたシュートは一つも無かった。 相手のブラジルのシュートは、エースのナウジーニョが放った4本に留まり、どれもキーパーに両手で止められていた。 「さあ、前半戦が終わりました。日本代表、シュートまでは抜群に良かったのではないでしょうか。 しかし、余りにもシュートが枠に飛ばなかった。解説のセルシオさん、いったいこれはどういう事なんでしょうか。」 「これだけのチャンスで、シュートが一本も枠に飛ばなかったというのは、過去に見た事が無いね。高校生の部活動でも、もう少しまともなシュート打てるよ。 後半から木田が本来の自分に立ち直る事が出来るか、それが、日本代表の命運を握っているね。」 アナウンサーと、解説者は、前半戦の戦いぶりに落胆の色を隠せ無かった。それは、テレビを通じて応援している多くの日本代表サポーターも同じ気持ちであった。 きっと後半からは、これまで快進撃を続けてきた日本代表の姿が見られる。そんな日本全国の期待を胸に、国立競技場に後半開始のホイッスルが鳴り響いた。
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