脅迫フリーキック

7/16
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
写真を撮り終えると、日本代表は自陣で円になろうとしていた。僕は、円の輪の真ん中に入り聞き耳を立てた。 何やら深刻な話らしい。急に日本代表の皆が、険しい顔付きに変わった。 チームリーダーである近藤が辺りを見回した。 誰も近くにいない事を確認する。 頭と頭を寄せ合い、小さな円陣を組んで、小さな声で囁いた。 「計画は順調だ。相手のブラジル代表には、約束通り事が運べば、一人あたり1億円渡す事になっている。ブラジル代表のナウジーニョに至っては、金だけじゃなく女まで要求してきやがった。あのダンス野郎、宝クジを不正に当てたというのに、まだ金が欲しいとはな。 六本木の姉ちゃんを二人用意するとなって、ようやく納得しやがって。」 なんだって…!近藤が良い放った言葉に驚いた僕は、円陣の真ん中で尻餅をついてしまった。 そんな僕を尻目に、近藤はチームメートへ囁き続けた。 「お前達、分かっているな。いつも通り俺にボールを集めろ。この試合は、後半ロスタイムに俺のフリーキックが決まり、1-0でブラジルに勝つ約束になっている。お前達は、バレないようにいつも通りプレーはしてくれ。」 近藤はチームメートの顔を一人一人確認した、そして、最後に木田と目を合わせた。「おい、木田。お前に点を取らせるのは今日で終わりだ。この試合でヒーローになるのは、この俺様だ。お前は、全部シュートは外に外せ。」 木田は、目を閉じて小さく頷いた。近藤はその顔をじっと見つめた後、今度は、キーパーの中島に目線を写した。中島は2メートルを越す長身を小さく屈め、近藤の話に耳を傾けた。 「おいノッポ。最終確認だ。相手のブラジルだが、ナウジーニョしかシュートを打たない。あのバカダンス野郎は、奴から見てゴールの右下に蹴るように契約しているから、必ず取れ。分かったな。」 中島は、今にも泣き出しそうな顔で力なく頷いた。 「よし、それじゃあ日本代表行くぞ!」 近藤はそれまでの囁く声から一変して、大声を張り上げた。それに呼応して、日本代表もぎこちない雄叫びを上げた。 「お、おうっ!」 それは、急に近寄ってきたテレビカメラに対してのパフォーマンスであった。 円陣の真ん中で耳内された、近藤の会話は、明らかにこれから始まる試合が八百長である事を意味していた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!