脅迫フリーキック

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「さあ、いよいよ勝負の後半戦が始まりました!」 アナウンサーの声は、相変わらずかすれている。 後半戦は、まるで前半のリプレイであった。 木田へのスルーパスまでは簡単に繋がる。 しかし、木田はシュートをゴールの遥か上空に吹かし続けた。 「一体どういう事でしょうか。またシュートが枠に行かない!」 「もうそろそろ、別の選手に変えた方が良い。日本代表の岡島監督は何をしているんだ!」 日本代表のベンチ裏では、控えFWの小久保がアップし始めた。しかし、岡島監督は、木田を、交代つもりは無く、すぐにアップを辞めさせた。 時間はあっと言う間に過ぎ、ロスタイムになっていた。表示されたロスタイムは5分間。 「いよいよ、ロスタイムに突入です!このまま延長戦か!」 ピーッ。審判の笛が鳴り響いた。 後半終了の合図かと誰もが思ったその瞬間、審判が指したのはゴール真正面での、日本代表のフリーキックであった。 ナウジーニョが木田を突き飛ばしたのを審判は見逃さなかった。 「おっ!なんと、日本代表のフリーキック!これは絶好のチャンスですねセルシオさん!」 「これは、まず審判が良く見ていたね。この不必要な反則は試合を決めかねない。観客席の女性も祈っているね。神様に託すしかないよ。」 「おや、ボールを置いたのは木田です。何やら、口元を押さえて、近藤と話しています。」 木田が口元を隠しながら、手を左に振った。 「これは、木田が蹴るかもしれないね。壁の位置を左に変えている。」 それに対して、近藤も口元を押さえながら、木田に話かけた。木田の表情が厳しくなる。 「おや、どうしたのでしょう。二人ともキッカーを譲ろうとしません。」 その時、観客席から赤いペンライトの光がグラウンドに向けられ、木田の胸辺りを照らした。 「これはいけません。相手のブラジルサポーターでしょうか。木田のフリーキックを妨害しようとしていますね。」 「せっかくの決勝戦を、観客が台無しにしかねないな。今すぐ、辞めさせないと。」 ペンライトの光に気が付いた木田の顔は、驚きに溢れ、何か憑き物が付いたように生気が無くなった。 その光が消えたのと同時に、近藤が右手を大きく右に振った。 「近藤が、壁の位置を右に直していますね。これは、相手を撹乱させる為のフェイクなのでしょうか。さあ、木田と近藤が助走を取ります。果たして、このキックの行方はどうなるのか!?」
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