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「ま、いいじゃない」これが館長の口癖である。館長が先手を打って大月に向けて言ったのだが、やはり憤懣が爆発した。
「図書館の中では騒いだらいけませんよ」
この大月はみんなが認める、図書館の主である。司書で副館長の肩書き。その大月が事務所から子供たちに向けて声を荒げたのだ。
「オツキさん」
「オオツキです。館長の趣味と実益を兼ねているのはいいのですが」と嫌味半分と諦め半分の気持ちを館長にぶつける。図書館は静かであるべきだ、という彼女の持論があり、小さな子供たちが笑いながら走っていると、途端に反応してしまう。大月のことをオツキさんと言ってしまうのも館長の口癖だ。館長は、白い荒綿のワイシャツに、今は冬だからベストのセーターを着ている。一年を通してデニム生地のエプロン。そのエプロンに使い捨てのボールペンを挿し、グレーの綿パンツに黒のスニーカー、トレードマークの黒のうでぬきをしている。短めの七三分けのいつもの髪型で、ほぼ白髪。どちらかというと口数の少ない初老のおじさんである。ハの字型の眉で、顎の張りがしっかりとしている。
「土曜日か日曜日くらいじゃないか。さぁ、お噺会の準備を始めよう。今日はゲンコツ山のたぬきさんとゴンギツネの噺だよ。2作連続。」と館長は独り言のように言う。大月さんの小言はなんのその、という空気を態々醸しだして。そもそも、大月の言動は悪意がないことは分かっている。長年の仕事仲間だから。だけど、館長がそういう態度を取れば、周りの職員が気を使わなくて済む。そして、図書館に来るのが楽しみの子供たちも悲しませることにならない。館長の気遣い。
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