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この町に図書館は一つしかない。町立図書館としては小規模で、地元の歴史書から話題の文芸書籍、新聞、雑誌と揃えてあり、図書館を利用する人たちに不便を感じさせないようになっている。平日はお年寄りや主婦が多数利用していると言いたいところだが、現状はまばらにお年寄りがポツポツと好きな本や新聞を読んでいる。建物も古い。高度成長期特有の昭和の建物。小さな町の小さな二階建ての白い図書館。建て増しも、建て直しの予定もない。そんなことで、苦情や申し立てがあるような町でもない。職員も4名しかおらず、館長と館長補佐の大月公子、もう一人の司書の君塚里子、委託職員の吉川賢である。図書館の利用者を増やす目的として、週に一回は子供たちを集めてお噺会を催している。始めのうちは子供たちが来なかった。来ても、2、3人。図書館へ子供をこさせるにはどうしたらいいか、と話し合いが何度となく行われたのだが、お年寄りばかりで、小さい子供の親、つまり、働き盛り世代は来ないし、大学受験を控えた一部の高校生か、高校受験のための中学生が閲覧室を使うばかりで、図書を借りない。お年寄りも本を借りない。だから、新しい本を購入する予算が町の予算から削られていく。この現状の打開策として、小さい子供たちを呼ぶことに目を向けられたのだ。子供たちが来なければ呼べばいい、とばかりに率先して行っているのが館長で、ここ十年生きがいと言っていい。この図書館は子供向けに着々と整理がなされた。子供コーナーを設け、絵本に漫画といった類から、学習図書が揃えられ、そして、低い机や椅子を並べ、その机や椅子を寄せると、多目的に使えるスペースに変わる。そこでお噺会をすることになっている。
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