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「館長、あまり騒がしくすると利用者から苦情がきます、早く行ってください」と大月が赤くなったお月様のような顔をしている。
「お噺会が始まれば、すぐに静かになるさ」と館長の笹河勇一は悠々と準備をしている。笹河はもう少しで退職する。だから、次期館長の大月に面倒な仕事は任せ、自由に振舞っていた。
「館長の生きがいなんだから、仕方ないですよ」と君塚公子がすかさず笹河のあとに言った。君塚にとっては、仕方ないですよ、と言いながらも実は子供たちの姿を見ると嬉しくて仕方がない気持ちを隠しきれない。
「実際、利用者が増えていますから、少しずつ。子供たちが来出してから、その親やおじいちゃんおばあちゃんも来るようになっていますよ」とカウンターから、大月をなだめるように言う。受付カウンターのすぐ裏手が事務所になっていて、カウンターと事務所は、大きなガラス窓で仕切られている。何かあればすぐに分かる。この道十年のベテランの域に達した君塚の主な持ち場はこの受付カウンターである。大月とは対照的に痩せがたで、めがねをかけている。学生時代は、外見を気にしてコンタクトにしていたが、年を重ねて、やはりメガネのほうが楽なようだ。子供の世話と家事をして、仕事もするとなると外見を気にしている暇がなくなり、家庭を持ってからは、自分のことよりも子供のこと、夫のことを優先的に考えるようになった。大学時代は、幼稚園の先生か図書館の司書のどちらかになろうとしていた。元来まじめな性格であった里子は、学生のうちに司書の資格を取ることができた。幼稚園の先生よりも、図書館の司書のほうが落ち着いて仕事ができると思って、この図書館の司書の募集に応募したのである。落ち着いた仕事環境で残業も少なく重労働ではないが、子供たちの笑顔や笑い声が聞こえないことに寂しさも覚える。
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