だんだんと見えなくなります

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霧に囲まれて全く見えない場所に立ち止まってどれ程経っただろうか。正確には、霧に囲まれているのではなく、霧に囲まれているように見えるというわけだが、そんな事はどうでもいい。 時折、ここは何者かが通るようで、話し声が聞こえる。綺麗な場所だったとか、微妙だったとか、おそらくは他の場所の景色について話している。 羨ましい。腕は貧弱で、重いものなんて持てない。足は鈍く、飛ぶなんて出来ない。心臓が弱く、走ることすら出来ない。何より目だ、ほとんど見えないこの目だ。 「知ってるかい、あいつは嫉妬深いから。緑内障になってしまったんだよ」 誰かの声が聞こえた。目が緑なのは俺が悪い訳じゃない。持っていないのが悪いんだ。何で俺には無いんだ。羨ましい 「世界が狭くなって、何にも見えなくなっちまうだろうな」 持たない者の心が、持つ者に解るわけがない。何であいつは持っている。憎い、憎らしい。 羨ましいが、憎いになった俺の行動は必然的であった筈だ。地面に落ちていた何か、それを拾い上げて、声の方向に投げつけた。 グジャっという何かの音と、痺れて動かない右腕。音の方向に向かって歩く、そして、落ちているものを確認した。生首だ それはもう、歓喜だった。欲しいものが手に入るのだから、あいつに有って俺に無いもの。その生首の目玉を取り出す、そして、自分の目玉を取り出してそれと入れ替える。 最初に見た光景は、一人の人間がつるはしによって、首が切断された様子であった。鮮明に見えた、嬉しい、嬉しい。周りには、他に人は居ないらしい。 俺は色んな所に行くことにした。ここを通りかかる奴等が言っていた、色んな所を巡るために。だが、少し歩いただけでくたびれてしまう。 「今度は向こうにいっていよう」 元気な声が聞こえた。そいつは、この道を軽やかに歩いている。きっとその体力で、色んな所に行ってきたのだろう。羨ましい、何で俺には無いんだ。憎い、何であいつには有るんだ。 そいつが地図のようなものを確認している間に、後ろからこっそり近付いて、つるはしを降り下ろした。それはバタリと倒れた、頭に穴が空いている。 それからは、当然の話だが、俺は心臓を入れ替えることにした。そいつだけに有るなんて狡い。俺にも有るべきだろ。だから、当然に入れ替えるんだ。
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