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「それでは、行ってらっしゃいませ。アレン様。」
馬車から先に降りたメイドが、恭しくお辞儀をして、次に降りてきた者に言葉をかけた。
「はぁ~。いい加減に”様”はやめてほしいな。メリルさん。」
メイドに呆れた声をかけながら、座りっぱなしで凝り固まった体をほぐす青年。
「そんなっ!アレン様は、行く宛の無い私を雇っていただくだけでなく、私の家族の職も斡旋してくださいました。これで私がアレン様に無礼を働いては、例えアレン様から許可を得ていても、この身に神罰が下ってしまいます。」
青年に話をふられたメイドは、眼を見開き、必死の形相で言葉を返す。
青年は、再度メイドの振る舞いに呆れるが、このやりとりには、何の生産性も生み出さないのを知っているため、話をうちきることにし、メイドに屋敷へ戻る様に伝えた。
メイドは、去り際にまたも恭しく頭を下げ、御者に戻る旨を伝え馬車へ乗り込み、屋敷に向かって帰って行った。
一人静かになった青年は、大きく息を吸い正面を見据える。
「ふぅ。ついに高等部か~。」
リブラの花びらが舞い散る中、青年が立派な門の前で立ち尽くしていた。
「ほんと、見れば見るほど桜の木だな。いまだにさくらって言いかけるしな。慣れてきたはずなんだがな。この世界にも。」
青年は、独りごちりながら正面の荘厳な建物に向かった。
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