阿部《あべ》春奈《はるな》編

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オーブンのふたを開けたとたんに 開ける前よりも濃いミルクのニオイ。 それにノックダウン寸前の春奈。 スーハースーハーと 豪快に鼻の中に空気を取り込んでいく。 「いいニオイぃー! この匂いで男の心を鷲掴みできないかな」 「できるんじゃない? パンがお好きな人ならなお更」 「そっか。彼が来る直前に オーブンから取り出すように調整して・・」 春奈の意識がどこかに行った。 何らかの作戦を頭の中で立てているようだ。 亜美は鉄板の上から 網棚の上に焼けたパンを乗せて行くが 「春奈ちゃん戻ってきて。 まだお仕事は残ってるのよ」 笑って春奈に声をかけた。 「あハイ!すみません」 ハッと我に返った様子の春奈も苦笑。 「このバターを刷毛で 1個ずつパンの表面に塗ってちょうだい」 少し融けたバターを刷毛にこすりつけ それを焼けたパンに塗って行くと 焼きたての熱でバターが融けていく。 光沢が出て パンがピカピカになった。
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