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「……なんでって」
早とちりでこんなとこまで追っかけてきて、かっこ悪いことこの上ない。
だけどこんな風に真っすぐに見つめられたら、言い繕うよりももう全部素直に口に出していいんじゃないかと。
そして何より、安心して力が抜けた。
細い首の後ろに両腕を回して、縋りつくように首筋に顔を埋めた。
「大変だった。日本飛び出したはいいけど、僕フランス語なんてさっぱりだし英語だっていざとなったらさっぱりだし。
空港降りてからどっち向かえばいいのかもわかんないし、タクシー乗って絵葉書の住所に連れてってくれって身振り手振りで……」
もういいや。
カッコ悪くても。
短い髪の隙間から、直接肌に触れられてつい鼻先を摺り寄せる。
この匂いと体温に、今は甘やかされたい。
「金勘定もわかんないから適当にお札見せたら、なんかぼったくられた気もするし。夏希さん中々帰ってこないからどこかで飯食おうと思っても店らしきものが見当たらないし。
アパルトマンの前でぼうっと立ってたら不審者みたいな目で見られるし……もうやだ海外怖い。夏希さん見つかって良かった」
まじで怖かった。
こんなとこで一人でやってける夏希さんをまじで尊敬する。
「ちょっと。だったらなんで来たりしたのよ」
「そんなの夏希さんに会いたかったからに決まってるでしょ」
「……何よ。先に姿見せなくなったの、そっちじゃないの」
ぎゅうっと抱きしめる腕に力を込めたら、夏希さんの声が弱弱しく震えたような気がした。
「うん、ごめん……」
ほんとに、ごめん。
先に貴女を放り出したのは、僕なのに。
腕の力を緩めて、夏希さんの顔色を覗き込む。
ああ、やっぱり眠れていないんだきっと。
「ごめん、もう一人にしない」
薄らファンデーションの下に見える目の下の隈にキスしたくなるくらい嬉しくて、つい愛し気に親指で撫でた。
「……好きだよ」
僕無しじゃ眠れなければいいんだと、意地悪なことを思うくらい。
居なくなって初めて、叱られた子供みたいに必死になって追いかける羽目になるくらい。
そんな、子供染みた愛し方しかできなくて、ごめん。
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