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こっちは必死になってこんなところまで来たっていうのに。
夏希さんは目が合っても、ポカンとした様子で歩く速度もゆったりとしたままで。
まるで僕だけが、一人がむしゃらになっているみたいで悔しい。
悔しくて悔しくて仕方ないけど、それよりもやっと、やっと。
「見つけた!!」
やっと見つけた喜びの方が大きくて、力任せに抱き着いた。
夏希さんの着こんだコートの表面は冷たかったけれど、それでもぎゅうっと強く抱きしめれば内側から温もりが滲み出てくる。
良かった。
金髪の画家と並んで歩いて来たりしなくて。
最悪、本当にデッサン旅行に出かけてしまっていたらと思うと、ここでじっと待つ時間が何倍もの長さに感じた。
「か……要くん? なんで……」
腕の中でもまだ茫然としていた夏希さんが声を出す。
僕は、彼女の両肩を掴んで「なんでじゃないよ」とその顔を覗き込んだ。
「ねえ、そんなにあの画家がいいの?」
「はっ? あの画家って」
「そんっなにあいつのことが好きだった? 好きだった画廊の仕事もやめちゃうくらい苦しかったの?」
「ちょっ、ちょっと待って……! っていうか画廊は辞めたわけじゃないわよ?!」
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