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英文字の印判の入ったシャンパンとワインの木箱を、店のボックスカーに積み込んでいく。
力仕事は余り好きじゃないので、この作業の時だけは酒屋に生まれたことを心から後悔する。
木箱の数をざっと目で数え、受注伝票と照らし合わせて間違いがないことを確認すると、ハッチバックを勢いよく閉めた。
吐く息は白く、頬にあたる風は冷たい。
軍手をはめていても今日は指先がじんじん痺れて痛いくらいの寒さだ。
上を見上げると、薄い水色の空が広がっている。
気温は低いが晴天で、日差しだけは暖かそうに見えた。
「さっさと回っちゃうか」
軍手を外してジーンズの後ろポケットに押し込み、運転席へと移動しようとした時、店から母親が出てくるのが見えた。
「要!」
「何? なんか追加?」
「そうじゃないけど、はいこれ」
ぽん、と投げ渡すように暖かい缶コーヒーが飛んできて慌てて両手で受け取った。
冷えた指先に心地よい暖かさだった。
「さんきゅ」
「今日は帰ってくるの? 配達が終わったら、用があるならそのまま行ってもいいわよ」
「んー……どうかな」
近頃僕が店の仕事を手伝わず、時々アルバイトに出かけることを母親は気にしているらしい。
まあ、本当はバイトばかり、というわけでもなくそれを口実に夏希さんに会いに行ってる時もあるわけで。
「もし出かけるようなら連絡入れるよ」
具体的なことは言わずそれだけ告げた。
お小言も食らわずにあっさりとうなづかれると、流石にちょっとバツが悪い。
「わかったわ……」
どこか歯切れの悪い母親に少し首を傾げながらも、運転席のドアを開けた。
中に乗り込むと、また母親がもの言いたげな顔で窓ガラスを叩く。
「何、どうしたの」
「うん……あのね」
何か言いたいことがあるのは見てて丸わかりなのに、言い澱む様子でいつもの母親らしくない。
何も言わずに待っていると、数秒逡巡した後漸く本題を切り出した。
「こないだ、暁が帰って来た時にまた何か言われたみたいだけど……要、あんた何か他にやりたいことあるなら好きにしていいのよ?」
「そんなこと言ったって。そしたら、うちの酒屋誰が継ぐの」
兄がうちに帰った際、酒屋の仕事に専念しろと口うるさく言ってきたのを、ずっと気にしていたらしい。
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