――― 第一章 ―――

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* * * 「「かんぱーいッ」」 軽やかな音が広いリビングに響き、その音を合図に飲み会が始まった。ビールだワインだ焼肉だ、野菜も食えだのご飯も食えだの、てんやわんやの騒ぎである。 ――前の飲み会もこんなノリだったのかな……。 皆のテンションについていけず、輪から少し離れて原部が野菜を盛りつけていると、「あれ」と梅原先輩が口を開いた。 「今日、奥さんと娘さんはー?」 「ん? ……ああ、昨日から旅行に行ってるんだ。……宮城に」 坂本さんが少し寂しそうに答えれば、山口くんが「奥さんと娘さん、仲良しですね」と笑って言う。 「そうなんだよ、もうママにべったりで」 良くありがちな、幸せな家庭の会話だった。何年ぶりに聞いただろう、こんなほのぼのする話、と原部も微笑む。部屋の端っこに寄せられた、お子さんの遊具が目に付く。本棚には大人の書物に混じって、大きなサイズの絵本が数冊肩を寄せて並んでいた。その脇には、庭で撮影したような笑顔の家族写真が飾ってある。
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