――― 第一章 ―――

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「原部」 不意に低い声で名前を呼ばれ、ハッと顔を上げた。キッチンに入った坂本さんが、ちょいちょいと手招きをする。「ごめん、手伝ってくれるか、これ」 ――そんな、気軽に入ってもいいのかな。 少し戸惑って原部がそこに立ったままでいると、坂本さんは心を読んだかのように微笑み、そして再び手招きをする。 「いいんだよ。……原部が良ければだけど」 「いや、やります!」 キッチンにおずおずと入って行くと、フライパンの上に乗ったこんがり焼けた分厚い牛肉が、油の撥ねる音を奏でていた。いい匂いが鼻を掠め、小さくお腹が鳴る。 ――聞こえてないよね!? さっと頬に熱が集まるのを感じたが、坂本さんには聞こえなかったらしく、「んーと、じゃあ……」と冷蔵庫を振り向きゴソゴソと野菜を取り出した。
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