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「原部」
不意に低い声で名前を呼ばれ、ハッと顔を上げた。キッチンに入った坂本さんが、ちょいちょいと手招きをする。「ごめん、手伝ってくれるか、これ」
――そんな、気軽に入ってもいいのかな。
少し戸惑って原部がそこに立ったままでいると、坂本さんは心を読んだかのように微笑み、そして再び手招きをする。
「いいんだよ。……原部が良ければだけど」
「いや、やります!」
キッチンにおずおずと入って行くと、フライパンの上に乗ったこんがり焼けた分厚い牛肉が、油の撥ねる音を奏でていた。いい匂いが鼻を掠め、小さくお腹が鳴る。
――聞こえてないよね!?
さっと頬に熱が集まるのを感じたが、坂本さんには聞こえなかったらしく、「んーと、じゃあ……」と冷蔵庫を振り向きゴソゴソと野菜を取り出した。
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