――― 第一章 ―――

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「原部さん」 不意に声を掛けられ後ろを振り向くと、隣のデスクで働く山口くんが缶コーヒーを差し出してきた。仕事が終わったからか、まだ会社にいると言うのに少しだけネクタイを緩めている。 「あ、ありがとうございます」 「お疲れ様です。……あとどのくらいで終わります? それ」 彼が顎でデスクトップを指すのにつられ、原部はパソコンに目を移した。画面には来週使う会議資料と、提出期限の迫っているレポートが表示されたままになっている。――今日も残業かな。頭の隅っこに浮かんだ考えに、思わず小さく溜息を吐いた。 ――金曜日なのに。今日くらいは早く帰ってお酒でも飲みながら眠りについて。土日は映画でも見ながらゆっくりして。そんな理想の休日を、この会社に入社してから過ごした記憶がない。
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