――― 第一章 ―――

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すると原部の心の声が聞こえたかのように、山口くんが憐れむような視線を送ってきた。 「……なかなか終わりませんか」 「んんー、多分今日も残業になるかなぁと」 言いつつ缶コーヒーのプルタブを開ける。パシュッという軽い音の後、ふわりと香ばしい匂いが鼻を掠める。山口くんが甘いコーヒーを買ってこなくてよかったと思った。今の気分ではない。 原部がコーヒーを飲むのを見ながら、山口くんが口を開く。 「実はこれから、坂本さんの家で飲み会やる話になってるんですよ」 コーヒー缶に口付けたまま、思わず山口くんを見る。――それで? と首を傾げると、観覧車に乗る前の子供のように、落ち着いた声で……それでいてワクワク感を隠せない声で言う。 「原部さんも来ませんか」
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