運命の曲がり角

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時計の針が21時を指した頃、スーツケースを片手に玄関を出た。 (ぅわぁー!見えてない!) ガラスのショーウインドに映らない。ド派手な銀髪の男が、誰の目にも見えてないのがわかる。 行き交う人は気遣いなく通りすぎる。 そりゃそうだ。すれ違い様に、スーツケースが腕や手に当たって接触して初めて、背中越しに振り返って見ても何もないので、当たった部分をさすりながら首を傾げていた。 ああああ、シュールだ。僕も大勢いる場所には当分行きたくない。 スーツケースのガラガラ鳴らす音も、僕が手にした時点で同化するので、周囲には聞こえなくなるようだ。 「私たちが無色透明になるのは、普通の方が眠るように息をするように、自然に備わっているんです。特別な能力ではなく体質です。 姿を相手に認識させたい時や、声を相手に聞かせたい時だけに秘術を使いますが、夜ならば簡単なんです。」 初めて、“透明人間”として電車に乗った。電車の車体に影すら映らない。照明が屈折せず光や影はカラダを素通りする。存在しないものと認識しているのはナゼだ? 確かに僕たちはここにいるのに… 駅員の目を気にせず、ピッとICカードを通した。やはり不正乗車はしたくない。透子が僕をチラ見したが何も言わなかった。 しかし。駅前で手土産のバームクーヘンを買うのは、透明人間一日目の僕にはハードルが高すぎる! 無謀な挑戦はしたくないので、手土産は透子に託した。存在を顕にする難しさを目の当たりにしつつ、秘術を使っている透子を見ていた。 駅から歩いて10分ほど歩く先に、なだらかな坂がある。坂の上は住宅街になり一軒家が続いている中に目立つ緑色の屋根。 実家に到着した。
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