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曲がった先には
一人の男性が帰国した。漆黒色のトレンチコートを纏い、ジュラルミンケースを手にしている。サングラスに反射する光は鋭く、他人を寄せ付けないような威圧感があった。
高層ビル最上階の自宅は、展望台以上のロケーション。ガードキーでロック解除し入室すると、そのまま歩みを奥へと進めて、ベランダに繋がる壁一面の窓を開け放した。
強い風が髪をなびかせる。
郷愁の念から解放されて気分は爽快だ。気持ちがいいのは精神的なものだと自嘲しながら呟いた。
「寄り道して遅くなってしまった。あの娘も成長しただろう。ぜひ此方側に迎え入れて伴侶にしたい。満月のような煌めく瞳、透き通った滑らかな素肌、艶やかな長い金色の髪に早く触れたい。」
いつものように彼女の気配を辿る。容易に居場所を把握できるはずが、プツンと切れた糸みたいに途絶えてしまった。
「気配を隠しているのか?」
再び集中するが彼女は見つからない。無意識に握った手に血が滲んだ。
「どこに行ったんだ?透子?」
呟いた性の瞳は深紅に染まっていた。
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