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緊迫した空気を変えたくてわざとおどけて言った。
「スルーか。友達少なそうだな。」
肩を竦めて、透子がきっぱり言った。
「伊織ってやっぱ変わり者ね」
「変わり者の透子に言われたくないかもな?」
透子は一瞬笑ったけど、表情の翳りを隠すように視線を落としてしまった。
「伊織は恐くないの?」
囁くような掠れた声で訊かれた。
「僕なんて眼中にないと思うよ。自分に太刀打ちできない弱者には無関心じゃないのかな。透子どうしたの?吸血族と何かあるの?」
ふんわりと抱き寄せた透子は、黙って首を横に振った。
「別に関わりはないし何もないわ。ただ、伊織が巻き込まれるかもしれない…」
心配性な透子をギュッと抱きしめ、不安に揺れる瞳を見つめた。
「ありがとう。僕は大丈夫だよ。透子の予感は外れないし気をつけるよ。」
頬を朱に染めた透子はにっこりした。
「うん。何かあれば必ず教えてね。」
「ああ、そうする。朝食にしようよ。」
この時間がイチバン好きだ。好きなコと一緒に過ごせる至福の瞬間。仕事もチカラの制御もなく、素でいられる、ふたりの甘いひととき。
調査する時間帯は必然的に夜が中心だが、普段、面談や受電は昼間になるので、かなり不規則な毎日の中で大切にしてる。
吸血族や透明族は陰の種族で夜行性で昼間の行動が限られてしまうが非常に力が強い。天狗族や獣人族(狼男や猫叉、河童等)は陽の種族で、夜には身を潜める習性があるが、人間の世界に溶け込むことに躊躇はない。
ちなみに透子は、透明族の両親から生まれた純血種のため夜行性で、昼間の耐性が 僕より低い。皆が起き出す頃から昼過ぎまでは眠りにつく。
朝食を終えるとメールや手紙を確認したり掃除や洗濯など家事もまとめて行う。生活音や雑音が迷惑にならないよう閑静な住宅街より駅前を選んだんだと透子は気がついてはいない。
依頼者の利便性だとカン違いしている透子がかわいいと思ってる。
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