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泣き止んだ女は、ハッとした表情で僕を見た。互いに見つめ合う。
切れ長の目に涙を滲ませている。色白で透き通るような肌。さくらんぼ色した唇も艶やかだ。長い黒髪は腰まで届いている。
美麗な人だ。
僕に気があるんじゃないかと、淫らな錯覚を起こしそうなくらい、強い熱い視線を僕に浴びせた。
(僕のタイプじゃないけど!)
「私もアンタみたいな、ひょろいのお断りですよバカ。」
(バカ?言葉にしていないけど?)
「バカって何だよ?勝手に人ん家入って泣き出して暴言吐いてヒドくない?」
「なっ、わわ私だって好きで侵入した訳じゃないですッ。」
肩を小刻みに揺らしながら、涙を堪えている姿に狼狽えた。
「あのさ、さっき衝突したのって君かな?僕は狭間伊織。アンタじゃない」
泣いてる女に弱いのは生まれつきだ。口調を和らげて、疑問符を投げてみた。
「私は透子。伊織の許嫁です。」
(えええっ!!なんだよそれ!)
再び沈黙がふたりを支配した。
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