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すやすや眠る透子を眺めつつ、スマホ片手に家族へメールした。
「大事な話があるから今夜は帰るね。」
透子の話は本当なのだろう。突拍子もない話だし、未だ実感は沸かないが、疑う余地はないと直感がいっている。
僕の身に起きた出来事を包み隠さず話さなければならない。家族の協力がなければ、今後の生活も困難だろうから。
日常で電話で声だけでも、ラインで文字だけでも誤解を招くことがあるのに、見えないって大変だと思ったんだ。
友達数人にライントークでバイト先に体調不良を理由にシフトチェンジと、授業のノートをお願いすると、一気に行動に移した。
まずスーツケースに、荷物や衣服を詰めて荷造りした。
残り物で炒飯と中華スープを作った。買い物に行く前でよかった。元から中身が乏しかったので、ほぼ空になった冷蔵庫。食材を処分せずに済んだと、苦笑しながら珈琲を飲んだ。
そして、自分の置かれた状況に戸惑いだけが支配している冒頭に戻る。
夕方になって陽が落ちる頃、透子がベッドから抜け出した。
キッチンカウンターのスツールに座り、スマホを前に、気の抜けた僕の背後にやって来た。
「良い薫りですね。私にも珈琲お願いします。」
「了解。おはよう、透…
スツールを回し振り返ると、驚きのあまり絶句した。
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