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勇者がこのクラスに来て以降、俺とミリィは休み時間の度に席を追いやられ、ホトホト迷惑していた。
「仕方が有りませんね、こちらにテーブルをご用意いたしましたので、こちらにお座りください。」
ミリィが椅子に座るのを確認して紅茶を淹れてやった。
「はぁ・・・、落ち着きますねぇ・・・。」
二人で紅茶を飲みながら人ごみに埋もれたミリィの机を眺める。
「誰かと席を交換なされてはいかがですか?女子生徒なら大体喜んで交換して頂けるかと思いますが。」
「そうしたら交換してくれた人の席が揉みくちゃにされてしまいますよ。」
「大丈夫でしょう、このクラスの女子はほぼ全て集まっているご様子ですので、一緒になって自分の席を揉みくちゃにするだけでございますよ。」
そして俺達には平穏が訪れる、まさにWin-Winと言う訳だ。
「サキさんの隣など如何でございましょうか?」
「なんでサキさん何ですか?もしかして気になるんですか!?」
だって静かだし、本の趣味とか合うし、俺も退屈なのは嫌だ。
「浮気ですか!?」
「違いますよ。ほら、彼女は今も一人で本を読んでいるじゃないですか、皆が騒いでいるのに我関せずと一人で自分のやりたいことに没頭していると、在らぬ誤解を生む事がございます。」
「誤解ですか?」
「私は皆とは違う、相手にそう思わせて気を引こうとしていると誤解される恐れがあるのですよ。それはいずれいじめへと発展します。」
「そんな・・・。」
「サキさんは物静かであまり人との会話が得意ではない様でございますので、親しい友人に相談すると言った事も難しいでしょう。」
「そうですね・・・。」
これであの勇者もどきが話しかけでもしたら決定打になりかねない。
と思っているうちに勇者が席を立って先に近寄って行った。
「どうしていつも一人で本を読んでるの?あっちでみんなと一緒にお喋りしようよ。」
俺はすでに頭を抱えるしかなかった。
この後の行動は大体予想ができる。
まずは積極的に勇者に話しかけていた女子がサキを引っ張って「嫌です。」え?
「私は静かに本を読みたいの、騒がしいのが苦手だからあなたの席から離れたこの場所で本を読んでいるの、お誘いしてくれたのは嬉しいけど、ごめんなさい。」
サキはそれだけ言うと本に視線を戻した。
俺の予想をはるかに上回る厄介事に発展しそうだった。
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