最低の人生

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「それじゃ、楽しんできたまえ。」 老紳士が消えたと思ったら俺は草原のど真ん中に立っていた。 「はぁ・・・。」 俺はその場に寝転んで空を見つめる。 「よし、死のう!」 そして俺は決断した。 新たなる人生は開始30秒で要らない物になった。 幸せと言うものを知らない俺は、幸せになるために何をすれば良いのかがわからないし、幸せの定義すらも知らない。 「そんなところで寝ていると、風邪をひいてしまいますよ?」 後ろから女の声が聞こえて来た。 しかし俺はそれを無視して空を見つめ続けた。 「もしも~し、聞こえてますか?」 もちろん聞こえている。 聞こえない方がましだと思う位には喧しいとも思っている。 「まさか、死んでるんですか?」 死にたいとは思ってる。 俺は静かに目を閉じてため息をついた。 「あ、生きてますね、よかった~。」 俺が生きていて良かったのはそっちの都合だ。 「もしかして寝てるんですか?」 いい加減うるさく感じてきた。 「ふふ、幸せそうな寝顔です。きゃっ!!」 女が幸せそうだと言った瞬間、俺は立ち上がり女の胸倉を掴んでいた。 「幸せなわけないだろ!!何も知らないくせに!!!」 「ご、ごめんなさい・・・。」 俺は手を放してその場に座る。 「俺はここで死ぬことにしたんだ、邪魔しないでくれよ。」 「・・・・・・。」 女は俺に掴まれた胸倉を直して俺の正面に座った。 「ご両親は?」 「生まれてすぐに死んだ。」 「お友達は?」 「そんな物は居ないし要らない。」 「何で話してくれるんですか?」 「ウザったいからさっさと消えて欲しいだけだ。」 「私が消えた後貴方はどうするんですか?」 「望みを叶える。」 それ即ち死ぬということ。 「・・・・・・。」 黙り込む女を放置して俺は立ち上がって歩き始めた。 「どこに行くんですか?」 「あんたの居ないどこかだ。」 あのモノクル爺、何が好きな事をしろだ、死ぬ事すらできねぇじゃねぇか・・・。 「そっちは危ないですよ!」 そうか、危険か、それは行幸な事だ。 「危険ばっちこーい!!」 俺は危険だと言われた方向に走り出した。 「えぇええ!!!???」 女の叫び声を置き去りにして俺は走り続けた。 走って走って森を越え、湖を通り抜け、目の前には石レンガの壁が現れた。
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