王国の帝

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「完全にぬかった・・・。」 国王が出て行った部屋のドアを見つめてひとりごちる。 「何がぬかったのだね?」 「爺、俺の幸せはどこに行ったんだ?」 「結婚、労働、勉強、報奨、成功、結果、富、権力、名誉、全て人の幸せだと認識しているが?」 つまりこれは 「はめられたって事で良いんだな?」 「ようやく気付いた様だね。」 くそっ・・・。 「君には人としての最高の幸せを享受して貰うよ。」 「俺はそんなもの嬉しくないんだよ!」 「君がそれらを嬉しく思わない限り、世界樹は見つからない。」 「何だと・・・?」 「世界樹の幹は人の愛、世界樹の枝は人の愛の結晶、世界樹の実はそれに託された願いの形、つまり、君が人を愛し、人に愛され、子をなした時、初めて世界樹は完成される。それが世界樹の正体だ。」 「それじゃ俺は・・・死ねないのか?」 「死ねるよ、君の子供が、君の身長を追い越して、君より立派な人物になり、その心に世界樹の実を宿した時、君と言う世界樹は役目を終えて眠りにつく事になる。」 「くそったれ・・・。」 爺はニヤリと笑ってそのままいなくなった。 「俺に人が愛せるのか?」 昼まで考えたが、その答えは出なかった。 そして今、みっともない寝顔の婚約者を眺めている。 「これを好きになれってか?」 枕を抱きしめ、涎をたらし、食べ物の名前を寝言でつぶやく。 「無理じゃね?」 とりあえず俺はミリィを起こすことにした。 「ミリィ様、起きて下さい、昼食のお時間でございます。」 「むへぇ・・・みるふぃーゆぅ・・・ぐふふ。」 この時間では風呂は清掃中で使えない。 「ふむ・・・。」 俺はミリィの寝顔に顔を近づける。 「起きて下さい、私の愛しい姫君。」 「!?」 ミリィの目が見開くように大きく開かれた。 「た、たたたたたた、タケルさん!?」 「目が覚めましたか?もうじき昼食のお時間でございます。」 「あ、あれ?お風呂じゃない・・・。」 「お風呂はただいま清掃中でございます。それよりさっさと涎を拭って食堂にお越しください。」 「ひっ!?」 服の袖で涎をぬぐい、ボサボサの髪を手串で治す。 「タケルさんは今後私を起こすのは禁止です!」 「今更でございますね、急にどうなさったのですか?」 「ど、どどどどうもしませんよ!?」 俺は溜息が出た。
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