勇者と執事

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「やっぱそうなるよな・・・。」 独り言ちながらゆっくりと残り半分の王城に歩みを進める。 「まて!」 「ん?」 先程の人間爆撃で舞い上がった土煙が風で流され、その向こうにはどう見ても地球製の学ランを着た同じ年くらいの少年が立っていた。 「何でこんなことをするんだ!」 「世界平和のためだ。」 「嘘を吐くな!こんな破壊行為が、平和に繋がる筈が無い!!」 全く持って反吐が出る正義感だ。 「なぜ戦争が起きるのか、考えた事はあるか?」 「なに!?」 「なぜ人は殺しあう?正義の定義は?虐げられた者達はどこにその怒りを向ければいい?」 「何を言ってるんだ・・・。」 「家族を殺された者達の悲しみは、どこに行けば無くなるんだ?」 「・・・・・・。」 少年は黙って俺をにらみつけている。 「なぜ戦争が起きるんだ?戦争は正義か?お前は正義のために呼ばれたんだろ?・・・勇者君?」 「そうだ、僕はこの国を守るために呼ばれた勇者だ!」 「国には国の正義が有る、この国の正義、俺の国の正義、他の国にだって独自の正義って物が有る。」 「だから何だ・・・。」 「お互いの正義をぶつけ合う、それが戦争だ。」 「・・・・・・。」 「それならば、全ての国を一つにしてしまったら、戦争は起きないんじゃないか?」 「そんなものは詭弁だ!!」 勿論その通りだ。 「だが正論でもあるだろう?確かに小さい小競り合いはあるかも知れないが、戦争と呼べるほど大量に血が流れる事は無い。」 「お前の目的は何だ!?」 「世界征服、戦争のない世界を作るための支配だ。」 今度は俺が勇者をにらみつけた。 「そんな事、絶対にさせないぞ・・・。」 「さっきお前は俺の目的を聞いてきたが、お前の目的は何だ?」 「世界を守る!お前の様な奴から、この世界を守るんだ!」 勇者はどこからともなく剣を取り出して構えた。 「そうか、それならば、今ここで俺を殺さないと、世界はどんどんと侵攻されてしまうぞ?」 勇者は腰を深く落として俺に切りかかってきた。 そうだよな、戦争がなくなったらお前は 「存在意義が無いもんな。」 戦争の為だけに呼ばれた勇者。 その哀れな結末を俺は語り継いでいこう。 『一滴の血も流さなかった勇者』として。 勇者の腕と頭が地面に落下して、その体も地面へと倒れた。
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