イシュタール

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「私にとって母と言えば、私を産んでくれたマリィお母様だけなんですよ。」 「そうですか、母と呼べる存在が居るのは幸せな事でございます。」 ふっと窓の外に視線を投げて呟く。 「・・・タケルさん・・・。」 「さて、そろそろお部屋にお戻りください、私も私用が御座います。」 立ち上がってクローゼットを開ける。 「タケルさんにとって両親って、どんな存在ですか?」 「解りかねますね、私がここに存在している事だけが、私の両親が居た証ですので、声も姿も何一つ知りません。」 タキシードを脱いで私服に着替える。 「家族と呼べる存在も、私は今まで知らずに育ってきました。」 クローゼットを閉じて鞄を手に取る。 「私は出かけて参ります、ここに居るのは構いませんが、あまり机や本棚を漁らないようお願いします。」 ドアを開けて部屋の外に出た所でミリィに呼び止められた。 「私は!私はタケルさんの家族のつもりです。」 「今まで、そう告げたつもりでございますが?」 それは今は家族と言うものを認識していると言う事でもある。 俺は扉を閉めて城の裏口に向かった。 「あら?お出かけかしら?」 扉に手を掛けた所でメイド長に発見されてしまった。 「ええ、魔符を切らしてしまいまして。」 「魔符?何に使っているの?」 「主にミリィ様の監視でございます。」 魔符とは、魔法陣を書きこんで使う札の事だ。 書き込む魔法陣によって様々な魔法が使える便利な札で、監視や防衛に使える。 「主を監視するとは・・・。」 「ミリィ様は監視をしておかないと何をするか解りませんので。」 「お転婆ではないと思うんだけれど・・・。」 「お転婆ではありませんが、行動が常軌を逸している節があります。」 この間の立て篭もりと良い、俺の部屋への進入、俺がこの国に来る前には厨房の爆発事件も記録されていた。 俺と出会った日の事も勝手に城を抜け出してギルド登録をして薬草を摘むと言うクエストを受注していた様だし。 「確かに・・・。」 「他にも買い足しておきたいものが御座いますので、非番である今日を使って買い物に出る事にしたのです。」 「お店の場所は解るかしら?」 「ぬかりは御座いません、大丈夫です。」 今度こそ扉のノブに手をかけて外に出る。 「悪いんだけど、小麦粉もお願いできるかしら?」 「はい。」
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