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城を出て町中を歩く。
こうやって一人で街中をゆっくり散策するのは初めてだったりする。
というか、病気以外での休日自体が初めてだ。
「ふぅ・・・。」
適当に買い物を済ませて目に留まった飲食店で食事を済ませる。
地球に居た頃から食べ物の味に拘りはない。
「ん?」
飲食店を出てその通りの向こう側にある古書店に目が留まった。
何故その方向を向いたのかは解らない。
本当にたまたま目を向けた、俺はそう思って居た。
それが実は操られていたと気が付いたのは書店の店主と話をした時だった。
「流石は全さんが作った最高傑作だな。」
店主は若い男だった。
「あんたは・・・何者だ?」
「俺か?俺は神だな、お前が世話になってる全知全能の神よりも上の立場の神様ってやつだな。」
「・・・・・・。」
「だよなぁ、信じられるわけねぇよなぁ・・・。」
信じていない訳じゃない、この男からは異様な雰囲気が漂っていたし、何よりこの俺が勝てないと本能で解ってしまう相手だ。
「お前をここに呼んだのはいくつか質問をしたかったからだ。」
男は椅子に座って足を組んでこちらを見ていた。
俺は入口に立ったままその様子を見ている。
男はカウンターに肘をついてニヤリと笑う。
ただそれだけの行為なのに、俺は冷や汗が出てきた。
「まず一つ目、お前は今、死にたいと思って居るのか?」
「いいえ。」
自分の返答にびっくりした。
死にたくない、この男が怖い、本気でそう思った。
死ねない筈の俺が、傷すら負わない筈の俺が、この男の前では本当にただの男だった。
「そうか、俺はお前の望みをかなえる事が出来るぞ?」
「今は死ぬわけにはいかないんだ。」
「全さんからは死にたがりだって聞いてたんだがな。」
ふっと重圧が消えた。
それが殺気だと気が付いたのは自分の呼吸の乱れを認識した時だ。
何もかもが全部違っていた。
あまりに力が違い過ぎた。
「二つ目の質問だ、お前は今、幸せか?」
「はい?」
「幸せなのか、不幸なのか、どっちだ?」
どっちとも答えられない。
幸せというものを知らない俺は、自分が今どうなのか、答える事が出来なかった。
「解らない。」
「だな、幸せってのは人それぞれ違うしな。」
男はうんうんと頷いて腕を組む。
「篠淵武流君、君が今、生きたいと思って居るのなら、幸せなんだろうよ。」
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