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男の言葉は俺の胸にスッと降りてきた。
「あんたは、本当に何者なんだ?」
「概念神って役職の神様だ、これでも偉いんだぞ?」
「ちょっとタクマ?まだなの?」
どうやらタクマという名前らしい。
「かっこつかねぇ・・・。」
タクマは溜息を吐いて後頭部をがりがりと掻いた。
「最後の質問だが、お前は今でも世界を征服したいのか?」
「それも解らない、この世界が裏切らないなら、別に手に入れる必要はないと思って居る。」
「そうか、好きにすると良い、この大陸だけで満足するのも、他の大陸に遠征するのも、世界樹を探し続けるのも、お前の自由だ。」
タクマは立ち上がって書店の奥に引っ込んでいった。
と思ったらもう一度出てきた。
「これを持っておけ、おそらくすぐに必要になる。」
「これは?」
「エリクサー、この世界だとその量で1億カラルは下らないな。」
「何でこんなものを?」
「必要になるからだ、本当はやばい事だが、その辺は俺の権力でどうにかしておくから大丈夫だ。」
死人すら蘇らせる奇跡の霊薬、それが必要になる事態が起きる。
「お互い愛妻家を目指して頑張ろうじゃないか。」
タクマは今度こそ家の奥に引っ込んだ。
そして気配すらも感じられなくなった。
「何だったんだ・・・。」
書店を出て後ろを振り向くとその場所にはもう何もなかった。
俺は薄気味悪くなって、眉を顰める。
手の中には確かにエリクサーの瓶が握られている。
「さっさと帰ろう・・・。」
城への道中、自分が本当は死にたくないと思って居た事を考えていた。
自分ですら驚いた。
生への執着、死への恐怖、無縁だと思って居たものだ。
俺を殺すことができるモノに出会って初めて感じた恐怖。
あそこで死にたいと答えて居たら、きっと俺は死んでいた。
改めてその事実を認識して背中に寒い物が走った。
裏口から中に入り、厨房に小麦粉を届けて部屋に戻ると、爺がそこに座っていた。
「タク坊に会った様だな、どうだった?」
「怖かった、あいつはマジで俺を殺せる。」
「そりゃそうだ、タク坊からすりゃ不老不死何て有って無いような物だろうな。」
「何なんだあいつは、いったい何をしに来たんだ?」
「あいつは神の中で一番偉い神様だ、この世界に来た理由は、お前に幸せをプレゼントするためだって言っていた。」
「恐怖が幸せなのか?」
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