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「その恐怖のおかげで君は自分が幸せだと気づいたのだろう?」
爺はニヤリと笑った。
「恐怖って奴は生存本能だ、死にたくないって思いがなけりゃ生まれない感情だ。」
「で?それが解った所で何が幸せのプレゼントなんだ?」
「死にたくないって感じるって事は、現状が不幸じゃないって事だ。不幸じゃないなら、君は今幸せだって事だ。」
爺はそうだろう?と目で訴えてきた。
「タク坊はそれをお前に伝えたかったんだろう。」
「随分と不器用なんだな、あんたの上司は。」
「なんせまだ20歳だ、神としても人としても若すぎる。」
爺はくつくつと笑って立ち上がった。
「ひねくれ者の君には相性の良いやり方じゃないかね?」
爺はそれだけを言い残して消えてしまった。
「なるほどな・・・。」
呟いたところで部屋のドアがノックされた。
「タケルさん?帰ってますか?」
「何の用でございますか?」
ミリィが部屋のドアを小さく開いて中を覗き込む。
「お帰りなさい、一緒にお茶でもどうですか?」
「そうですね、ちょうど一息つきたい気分でございました。」
ミリィは嬉しそうに笑って俺の手を掴んでバルコニーへ向かった。
バルコニーにはアリサ女王が座っていた。
ミリィは女王の体面に座り、俺は庭に面した所に座った。
「私、アリサ様をお母様と呼ぶ事にしました。」
「左様でございますか。」
俺は紅茶を一口すすると顔を上げて二人を見た。
「私も、世界征服を止めようかと思っております。」
「え?何でですか?」
「現状が幸せなので。」
幸せと言う言葉を、肯定の意味で使うのは初めてかも知れない。
「幸せ?・・・何ですか!?また体調が悪いんですか!?」
ミリィが慌てたように俺の額に手を当てる。
「熱は有りませんね、お腹が痛かったり、気持ち悪かったりはないですか?」
「大丈夫でございます、とある不器用な男性に無理矢理認識させられただけでございます。」
アリサ女王はにっこりと笑って俺を見ていた。
「それは素晴らしい男性ですね、いったいどこのどなたかしら?」
「きっと神様でしょう。」
二人はぽかんと口を開けてお互いの顔を見る。
俺はその様子を見て、ちょっと嬉しくなって、自然と笑みがこぼれてしまった。
「蒸しパンでも作って参りましょう。」
俺は立ち上がって厨房に向かった。
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