月子の取扱説明書

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 ハクトはその特殊能力のせいで、虚弱体質なのだ。特殊能力を持ち不老で人間よりも優良な生命体でも、個体差は大きい。車にもすぐ、酔って吐く。ハクトなだけに。  冗談はさておき。助手席に座る者はいつも、必ず他のメンバーから白い目で見られる。羨ましいと。ローテーションだとわかっていても、からかい半分で文句を言うのが荷台メンバーの役目みたいなものだ。  いざ自分が助手席に座る時、同じような目で見られ文句を言われることがわかっているから。全てが平等だとわかっているからこそ。  彼らにとってチユニは特別な存在。  最初に保護されたライトから新人のユラまで、彼らは皆心が繋がっている。なぜならライトから後に生まれた者は皆、出会う前からチユニのことを知っていたのだから。  ライトの心から情報が共有されている。チユニがどういう人間なのか、自分達をどう扱ってくれるのかがわかっているから身も心もゆだねられる。  反抗期の子供のようにチユニに逆らう者は誰もいない。月子の誰もが“良い子”なのだ。だからこそ、恐ろしい生命体。  彼らにとってチユニは全て。他のどんな偽善者でもダメで、チユニでなければならない。  もしも、チユニがこの世から消えてしまったら。彼らはどうなるのだろう?チユニにも、彼ら自身にも、誰にも想像がつかない。  生まれた理由も目的も月子が、いつ急に気が変わって人間に襲いかからんともわからない。そうなれば、きっと人類は滅亡する。
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