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トンネルの上にあるのは線路だけだ。人の通る場所なんてないし、イタズラで入り込んだりしないようにと柵も立てられている。だからそこに人がいる筈がない。
そもそも、いたとしても、影があんなふうに見える訳がない。
あんな、影の中で口の部分だけがはっきり動いて、来るなと叫ぶのが判るなんて…影がそんなふうに見える筈がないのだ。
影が猛スピードで走ってきた電車に飲まれる。でも、人が轢かれたという恐怖は感じなかった。その代わり、見てはいけないものを見てしまったことが怖かった。
その日以降も、通学路の変えようがないのであのトンネルの下を通って学校に通っているけれど、もうトンネル内で立ち止ることはないし、ましてや、電車の通貨を待つようなことも決してしていない。
周りの大人に聞いても、この近辺で列車事故が起こったことなどないというから、どうやらあの影はあそこにいる霊ではないらしい。
あの影が、いったいどうしてあのトンネルの上で、わざわざ電車に轢かれるような真似をしていたのかは、あれから何年も経った今でも謎のままだ。
それでも今更、謎の答えを知りたいとは思わないし、むしろ今は、二度とああいったことに関わらないよう、不可解なことは避けるようにしている。
…遠目に、電車が通って行くのが見える。通過して姿が見えなくなるまで、側によるのも、ましてや、地に通る影を見るようなこともせずにおこう。私自身の平和のために。
電車と影…完
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