電車と影

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電車と影

 通学路の途中にトンネルがある。  といっても、長さはほんの二メートルくらい。反対側なんて突抜けの短さだ。  縦にも横にも狭いから自動車は通れない。行き来できるのは人と自転車だけ。  毎日毎日、その狭いトンネルを抜けて学校へ行き、またくぐって帰って来る。  その途中、頭の上を電車が通ることがたびたびあった。  ただでさえ大きな電車の音が、トンネルの壁に反射していっそう鳴り響く。  その音の中に、最近、奇妙な別の音が混ざるようになった。  低い、何かが唸っているような音。最初は気のせいだと思っていたけれど、電車が通り抜ける際の轟音の中でだけ聞こえるから、それは気のせいじゃないと思うようになった。  聞こえるたび、轟く電車の音の中からそれだけを聞き取ろうとしてみる。  どうにか判るのは長く伸びる『あ』の音。最初の頃は唸っているように聞こえたけれど、叫んでいるんだと思うようになった。  ああああ、とか、わあああ、とか、轟音の中に叫び声が混ざっている。さらにその中に別の言葉が紛れている。  でも聞き取れなくて、何だろうと考えながらトンネルを通ったその日、私は答えを知った。  トンネルを抜けかけた時に電車が頭上を通過した。  いつものように、音を聞き分けたくて足を止める。その時、トンネルからもう外へ出るという位置にいたせいか、道の上に通過する電車の影が見えた。  迫りくる電車の前に人の姿があった。  その影が叫ぶ。  来 る な
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