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翌日、物見櫓から黒川の家軍勢約千名を確認した。主君を始め家臣団が皆甲冑姿で軍議を開いている。昇太郎もなれない甲冑に悪戦苦闘しながらも何とか装備を終え、この前と同じように軍議の末席に腰を下ろしていた。
「我らは負傷兵も合わせて総勢二百。黒川家はおそらく万全の状態で千と思われます」
「我らの五倍か・・・」
三倍までなら城は守れるというのが定説。しかし五倍ともなれば厳しい。しかも灰原家は負傷兵も含めての数字だ。城内にいる女子供の手を借りればもっと数は増えるが、それでも戦力としては心許ない。
「お館様! 白山家より返事が届きました!」
甲冑姿で駆けてくる一人の家臣が主君に手紙を差し出す。灰原昌隆は瞬時に手紙を手にとって読み始めた。
「な、なんだと?」
手紙を読み始めて数秒後、主君のただならぬ雰囲気に場の空気が重くなる。
「白山家の援軍は来ぬ・・・」
そして告げられた絶望的な現実。最後の望みが絶たれた軍議の部屋では重苦しい雰囲気が家臣団の口を閉ざしていた。
「黒川家ではない隣国との諍いに兵を割いているらしい。こちらに回す余裕は今のところないそうだ」
援軍を送りたいが送れない事情がある。これでは白山家を責めることはできない。
「我々だけで何とかできるのか?」
「無血開城も手段の一つであろう」
「戦わずして屈しろというのか?」
家臣団の面々が次々と言葉を交わし議論を展開していく。しかし結局は降伏するか徹底抗戦かの二者択一だ。中途半端に戦ってから降伏などという虫のいい話が通用するとは誰も思ってはいない。
「黒川家は我らを攻め滅ぼす気か?」
「あの数ならそうだろう」
「戦っても無駄死にだ。籠城で守り切れる数ではない」
「戦わないまま敗北を受け入れろと言うのか?」
「無血開城をしたところで全員の身が保障されるわけではないのだぞ」
どれだけ議論を行っても解決策など見えはしない。戦えば敗れる。戦わなければ黒川家に吸収される。吸収された後はどのような扱いを受けるかは黒川家の胸先三寸。何一つとして確証がない。
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