第6章 戦

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 翌々日の昼ごろ、今日も琴乃との鍛錬を行っている。すると侍女が走って来て琴乃の元へとやってくる。 「姫様、お館様がお戻りになられました」 「そうか。わかった。すぐに行く」  侍女は一礼をして踵を返し、琴乃と昇太郎の視界の中から消えて行った。 「私は父上や兄上の出迎えをせねばならぬ。昇太郎は素振りを言った数が終わるまで続けよ。それが終わったら私と一緒に皆の慰労の手伝いじゃ。いいな?」 「わ、わかりました」  琴乃は帰って来た父や兄に早く会いたいのだろう。いつもより上機嫌な様子と軽い足取りで昇太郎の前から早歩きで歩き去っていく。 「・・・一人取り残されると虚しい」  周囲に誰もいないのに刀をひたすら素振りする昇太郎。ここが戦国の世でなければ剣道部にでも所属していない限り滑稽な姿として周囲の目に映ることだろう。 「でも、頑張ろう」  せっかく琴乃が昇太郎のことを考えて課してくれた鍛錬だ。サボるのも悪いし、サボればサボるだけ昇太郎自身の命の危機にもつながりやすくなる。自業自得と言えばそれまでだが、戦国時代での自業自得は高い確率で死が着いて回る。それを考えると昇太郎は怖くてサボることができない。  しばらく素振りを続け、琴乃に言われた素振りの数は何とか終わった。さすがに連日鍛錬を行っているおかげか、最近はくたくたに疲れるがまだ動くことはできる。初日のようにボロ雑巾のように寝転がっていることしかできず、泥のように眠って翌日の日が高くなるまで起きられないということも多少はマシになって来た。 「僕、強くなっているのかな?」  今までの自分が自分でないかのような感覚に昇太郎は陥っていた。記憶の中にある弱々しくていじめられても黙って受け入れることしかできなかった自分。そんな情けない自分に今の姿を見せてやりたい。まだ大きな変化はないのだが、少しずつ自分が変わってきているのがわかる。成長しているという実感が昇太郎の心を強くしてくれている気がする。
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