第6章 戦

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 すでに筋肉痛も初日程ではない。痛くても次の日の鍛錬に耐えられる程度になって来たし、刀も心なしか少し軽くなっているようにも感じられる。それは自分に筋力が付き、刀の扱いが上手くなったことを意味している。それは紛れもなく成長だ。 「あ、そうだ。手伝いに行かないとダメだね」  素振りを終わらせた昇太郎は琴乃に言われた通り、帰って来た武士達の慰労のために琴乃が向かった方向へと行く。  するとそこで昇太郎はこの世の現実を突き付けられた。 「う・・・わ・・・」  言葉が出なかった。目の当たりにした光景はこの世界では当たり前のもの。しかし昇太郎にとっては初めて見る凄惨な光景だった。  血に染まった服、包帯の様に布を巻かれた体のあちこち、聞こえてくる痛みによって漏れるうめき声、風に乗って伝わってくる血と泥と汗が混ざった不快な匂い・・・  この世の真実にして歴史上幾度となく繰り返され、現代でも世界のどこかで銃声とともにこの臭いが充満している場所がある。しかしそれは昇太郎にとっては遠いどこか別の世界の出来事という感覚だった。だが今この場所で目の前に突き付けられたこの光景を見て、昇太郎は今まで自分がもっていた甘い考えがどれだけ愚かだったのかということを思い知らされた。 「あ、あれ? 琴乃さん?」  帰って来た負傷兵の手当てをする中に琴乃の姿はない。そして負傷兵の中に琴乃の父親と兄の姿が無かった。外にいなければ既に屋内だろうと推察し、昇太郎は負傷兵の横を通り抜けて城の中へと入っていく。
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