第6章 戦

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「乱戦の中、流れ矢に当たったようだ」  甲冑を外した琴乃の父、灰原昌隆がまだ汚れも残る衣服と体に神妙な顔つきで部屋へと入ってくる。 「すまぬ。もっと早くに敵の奇襲に気付いておればこのようなことにはならなかった」  父は我が子を失った辛さだけでも心が壊れそうなのに、琴乃を苦しめ悲しませてしまったことにまで罪の意識を感じている。 「我が子に先立たれるとは・・・情けない父よ」  すでに返事もできない琴乃の兄の姿を見て、父の灰原昌隆も涙が流れる。 「だが、泣いてばかりもいられない」  父は涙を流したがすぐに服の袖で拭い去る。 「家督を継ぐ者を失った以上、これからのことを考えねばならぬ。琴乃よ。今後の家督の話はそなたにも関係がある。まだ子細は何も決まってはおらぬが、養子か婿を取ることを考えねばならぬ」  灰原家の跡取りが戦死してしまった以上、灰原昌隆が死んでしまえば灰原家は跡継ぎがいなくなってしまう。家督を継ぐ者を用立てる時、妻はまず間違いなく琴乃になることだろう。 「父上・・・覚悟はできております。度重なる不幸も戦国の世の理ですから」  気丈そうな言葉を発している琴乃だが、その言葉は嗚咽と鼻声でとてもではないが気丈とは言い難い。 「子細が決まり次第伝える」 「・・・はい」  灰原昌隆はそう言うと部屋から出て行く。残された琴乃と会話に全く入れなかった昇太郎はしばらく琴乃の兄の亡骸と同じ部屋で同じ時を過ごしていた。
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