第6章 戦

14/14
前へ
/157ページ
次へ
 時代と共に移り変わっていく価値観があり、琴乃はこの時代の価値観に当てはまらない女性だ。そして昇太郎のいた現代の価値観に近いかもしれない。ならば彼女が昇太郎に親近感を持つのは当然で、昇太郎が彼女を悪く言わないのもまた当然のことだった。 「昇太郎・・・お前は本当に優しいな」  琴乃がギュっと、昇太郎に先ほどよりも強く抱きついてくる。それはもう抱き着くというより抱きしめるといっていいくらいの強さだ。 「え、い、いや、僕なんて・・・」  抱きしめてくる琴乃の体が昇太郎の体に密着する。あれだけ男勝りで勇ましい彼女なのだが、いざ密着してみれば思ったよりもその体は柔らかい。抱きしめてくることで胸が身体に触れて気が気ではない。今まで男としか接触がなかったと言ってもいいくらい寂しい人生を送ってきた昇太郎。触れる彼女の腕や体の一部は男とは全く違う女の子特有の柔らかさを持っている。それは昇太郎にとって想像以上の衝撃と共に、男勝りな彼女でもこんなに柔らかいのかという驚きから、自分がしっかりしなければならないという思いと新たな決意があった。 「・・・・・そうだっ!」 「うわっ!」  しんみりとした雰囲気が漂っていた時、何かを思いついた琴乃が突然大声をあげた。密着していた体を離して琴乃は真正面から昇太郎をじっと見つめる。 「・・・ふむ、少々無理があるな。しかし駄目かどうかもまだわからぬ。父上に進言してみる価値はあるかもしれぬ」  琴乃は昇太郎を見ながら何か一人で考え込んでいる。 「え、えっと・・・何?」 「ふふっ、それはまだ秘密じゃ」  先ほどまでの悲しみに満ちた雰囲気から一転、どことなく明るさを取り戻した琴乃がそこにいた。彼女が何を考えているのか昇太郎にはわからなかったが、それでも彼女に笑顔が少しでも戻ったのならそれだけで満足だった。  その後は少し落ち着いた琴乃といつものように雑談めいた会話を交わし、現代の知識を持つ昇太郎が琴乃の興味を引きつける内容を話しに盛り込んで会話した。それにより会話はこんな状態であるにもかかわらず思いの外リズム良く進み、琴乃はほぼ正常といえるくらいまで元気を取り戻していくことができたのだった。
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

115人が本棚に入れています
本棚に追加