第7章 会議

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「・・・昇太郎よ。先ほどから黙っているが、そなたはどう思う?」  主君の灰原昌隆の視線が昇太郎に向けられる。そして並ぶ家臣団の視線も一斉に末席の昇太郎に集中した。 「え、えぇ? ぼ、僕?」  いきなり話を振られて昇太郎は何と言っていいかわからず頭の中がパニックを起こしていた。今まで授業中でも率先して手を挙げる方ではなかった昇太郎が、いきなり一つの武家の未来に係わる会議で発言しろというのは無理な話だ。 「いや、あの、僕は・・・」  なんと言っていいのかわからない。そもそも戦国時代に来てからまだ二週間程度。詳しくもない情勢に未経験の政治にかかわる内容の発言は今の昇太郎には荷が重すぎた。  話を向けられても発言する様子がない昇太郎に、家臣団は呆れて何も期待していないかのように隣の人と小声で話を始める。それは昇太郎にとって辛い過去を思い出させる。自分一人がやり玉に挙げられ、周囲がひそひそ話をしている。それはいじめられていた時に感じた孤独と卑下されている雰囲気をフラッシュバックさせる。 「僕は・・・その・・・」  そしてそのフラッシュバックは更に昇太郎を追い込み、そしてとんでもない発言をこの場でさせてしまう。 「御長男の戦死は・・・不運じゃなかった気がします・・・」  その瞬間、ひそひそ話は一瞬にして静まる。完全な無音の時間が部屋をしばらくの間支配する。そしてその異様な空気を払拭する者はなかなか現れず、昇太郎の発言の真意を問いたい灰原昌隆が重い空気を払拭しようと口を開く。 「どういうことだ? 昇太郎よ。その言葉の意味、詳しく話してみよ」  重い空気が包み込む部屋の中で、昇太郎は話すように言われて慌てる。追い込まれた中で必死に絞り出した考えを言葉にしただけなのだ。理由もなければ説明する内容も持たない。ただ追い込まれたときになぜかそう思っただけで話す内容はまとまっておらず、ましてや昇太郎にはそう思った違和感があるような気がするだけで証拠など何もない。
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