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しかし説明を求められれば話さないわけにはいかない。手探りで言葉を探しながらになるのだが、それでも追い込まれたことにより直感が無理矢理口から飛び出させた言葉の理由にはなんとなくでがあるが違和感という答えがないわけではない。つまりそれは今から話す内容は昇太郎の推測の域を出ない、勝手な見方から感じた違和感を言葉にするだけのもの。しかも今回この場に集まった家臣団の人々の持つ意見や理由とはずれている。よって誰もがひとまず耳を傾けている。そして内容が内容だけに今はまだ誰も昇太郎を非難することはできず、静寂を守りながら昇太郎の言葉をじっと聞いていた。
「えっと・・・帰って来た時に聞いたのが、乱戦の時に流れ矢に当たった、という内容だったと思います」
話し始めた昇太郎に灰原昌隆はしっかりと一度、肯定の意を込めて頷く。
「乱戦じゃあまり弓矢は使わないと思うんですが・・・どうですか?」
昇太郎がそう言った時に家臣団からため息が漏れる。言った言葉に対して根拠が弱すぎたためだろう。バカにするような視線さえ昇太郎に向けられていた。
「今回は敵の奇襲攻撃を受けたのだ。統率がしっかりと取れていなかった」
「じゃあ味方が撃ったってことですか?」
昇太郎のその問いに場の空気が少し変わる。
「御遺体を見た時、首はとられていませんでした。首を取ろうとした痕跡もありませんでした。それを守ったという話も聞きませんでした。主君の長男なら手柄になるので敵なら首を取りに来ると思うのですが・・・」
昇太郎が言いたいことが周囲の家臣団にも少しずつ伝わる。そして戦場に駆り出されていた家臣団の面々ならその時のことをはっきりと憶えている。
「確かに言われてみれば妙だ。敵ならば討ち取ったと高らかに声を上げるはずだ。しかしあの時は奇襲を追い帰すまでそのような声は上がらなかった」
「うむ。味方も同士討ちをして慌てた様子はなかった。今思えばいつ倒れたのだ?」
「敵も味方も自分が撃った矢の軌道くらいは見ているはずだ。確かに妙だ」
家臣団が口々に疑問に思ったことを話し出した。
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