第7章 会議

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「それに此度のそなたの発言は重要であった。初めて見た時より少し顔つきも凛々しく見える。これから研鑚を積めばさらに見どころのある男となろう。そなたならば灰原の名を託せるかもしれぬ」  昇太郎にとって、主君からこのような言葉を受けるのは過大評価としか思えない。しかし褒められることに悪い気はしない。さらに成長まで認めてもらえた。それは昇太郎が生きてきた中で滅多にお目にかかれなかったこと。それが過酷な戦国時代で現実のものとなるなど夢にも思わなかった。 「なに、今すぐ返答はいらぬ。どの道この先のことを決めるのは間者の情報が手に入ってからになる」  昇太郎は返事をすることができなかった。褒められたことで有頂天にもなり、琴乃との婚姻を結ぶという話に喜ぶが、武家の名を一手に引き受けることになる不安は何とも言えない。さらに戦国時代ではいつ何が起こるかわからない。その恐怖は常に付きまとっており、複雑な心の内が何という言葉を発せばいいのかわからず、結局は無言のまま気遣わせる言葉をかけられることになるのだった。 「さて、ではそなたはこれより鍛錬か。よくよく研鑚せよ」 「は、はい」  昇太郎は深く頭を下げて立ち上がり、主君と琴乃を残して部屋を後にした。  部屋の外に出たところで昇太郎は頭の中と心を整理するために深呼吸を繰り返す。そしてこれからのことについての悩みを解決に導くために頭を使おうとした時、廊下に立ったまま足を動かせなくなった。 「あ、足・・・痺れた・・・」  動くに動けず考える余裕もない。長い会議が終わっても、飄々と歩いているみんなの姿が羨ましい昇太郎だった。
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